リーダーに任命されたばかりの頃、私は正直とても焦っていました。
「どうやって部下を動かせばいいんだろう」「チームの成果を出さなければ…」と、目の前のことばかりに気を取られていたのです。数字を追い、タスクをこなすことに必死で、自分がどんなリーダーでありたいのかなんて考える余裕はありませんでした。
そんなときに出会ったのが、ある先輩リーダーの姿でした。
その方は、常に 明確なビジョン(チーム理念) を掲げており、どんなに忙しい場面でも判断や行動が一切ブレない。言葉や振る舞いの端々から、その理念に基づいていることが伝わり、自然とメンバーも安心してついていく。チーム全体が迷いなく進んでいく姿を目の当たりにし、私は強い衝撃を受けました。
「リーダーとは、ただ業務を回す人ではなく、ビジョンを示す人なんだ」
その気づきから、私自身もチームの理念をつくることを決意しました。
それが、次の4つです。
- 常に誠実であれ
- 自分に嘘をつくな
- 時間を無駄にしない
- 幸せを追求しろ
この理念は、単なるスローガンではありません。
私は「部下を会社の歯車として動かす」のではなく、一人ひとりが“人として成長できるチーム”をつくりたいと考えています。仕事は人生の大きな一部であり、日々の経験がその人の生き方を形づくっていくものです。だからこそ、仕事を通じて人間としての成長を後押ししたい。そんな想いを込めています。
この記事では、なぜリーダーにビジョンが必要なのか、そして自分なりのリーダー像をどう築けばよいのかについて、私自身の経験と学びをもとにお伝えしていきます。
ビジョンを持たないリーダーが陥りがちな問題
リーダーに任命されると、多くの人がまず考えるのは「どうやってチームを回すか」です。
しかし、ビジョンがないまま走り出すと、次のような問題に陥りやすくなります。
部下の方向性がバラバラになる
ビジョンがないチームは、ゴールが不明確です。
リーダーが「とにかく頑張ろう」「売上を伸ばそう」とだけ言っても、部下は「どう頑張ればいいのか」「なぜ売上を伸ばすのか」が分からず、それぞれが自分の判断で動いてしまいます。結果として、チーム全体がバラバラに力を使ってしまうのです。
「何のためにやっているのか」が伝わらずモチベーション低下
人は、目的を理解できない仕事に力を出し切ることはできません。
ビジョンが示されないまま「とりあえず数字を追ってくれ」「とりあえず早く終わらせてくれ」と言われても、部下にとっては 作業のための作業 になってしまいます。
やがて「言われたことだけやればいい」という意識が広がり、モチベーションが下がっていきます。
迷走するプロジェクトの典型パターン
私自身も経験がありますが、ビジョンがないとプロジェクトはすぐに迷走します。
最初は意気込んで始めても、途中で「これって誰のため?」「そもそも目的は何だっけ?」と議論が迷子になってしまう。すると、方針転換が繰り返され、結局は時間と労力を浪費してしまうのです。
✅ 小まとめ
ビジョンがない状態で走ることは、地図を持たずに登山するようなものです。
「一生懸命登ってはいるけれど、どこに向かっているのか分からない」──そんな状況では、チームは疲弊し、成果も出にくくなります。
明確なビジョンを持つリーダーの強み
一方で、明確なビジョンを持つリーダーは、チームを安定して導くことができます。
ビジョンがあることで得られる強みを、具体的に3つ挙げます。
チームの判断基準が揃う
ビジョンは、チームにとっての「共通言語」になります。
たとえば「誠実であれ」という理念が共有されていれば、部下は迷ったときに「これは誠実と言えるだろうか?」と自分で判断できます。
リーダーが逐一細かく指示を出さなくても、チーム全体が同じ基準で動けるようになるのです。
部下が主体的に動けるようになる
ビジョンが示されると、部下は「何のためにこの仕事をしているのか」が分かります。
人は目的が腑に落ちると、自分から動きたくなるものです。
単なる作業ではなく「チームの理念に沿った大事な仕事」と理解できれば、指示を待つのではなく、自ら考えて行動する主体性が育っていきます。
上司や組織からの評価も安定しやすい
リーダーがビジョンを持っていると、上司や経営層に対しても説得力が増します。
「なぜこの方針なのか」「どんな価値を目指しているのか」を一貫して説明できるので、評価がブレにくいのです。
逆にその場しのぎの指示や曖昧な方針では、周囲からの信頼はなかなか得られません。
ビジョンは、チーム内外から信頼を集める軸になるのです。
✅ 小まとめ
ビジョンを持つリーダーは、チームに「方向性」「主体性」「信頼感」を与えます。
短期的な成果だけでなく、チームの土台を強くする力があるのです。
私自身の失敗と気づき
実を言うと、私自身も最初から「ビジョンのあるリーダー」だったわけではありません。
むしろリーダーになった直後は、典型的な「ビジョンを持たないリーダー」だったのです。
目の前の数字ばかりを追っていた
当時の私は、とにかく成果を出さなければと焦っていました。
「売上」「納期」「効率」といった数字だけを目標に掲げ、メンバーにも厳しく求めていました。
確かに一時的には結果は出ましたが、チームの雰囲気はどんどんギスギスしていきました。
部下からは「やらされ感」が漂い、ちょっとしたことで不満や愚痴が出る。結局、成果は続かず、私自身も疲弊してしまったのです。
「何のためにやっているのか」が答えられなかった
部下から「なぜこのやり方なんですか?」と聞かれたとき、私はうまく答えられませんでした。
自分の中に“軸”がなかったからです。
「とにかく数字のためだ」「上から言われたからだ」としか言えず、部下からの信頼はどんどん薄れていきました。
今思えば、このときの私は「リーダーとしての旗」を立てられていなかったのです。
先輩リーダーとの出会いで気づいたこと
そんなときに出会ったのが、冒頭で紹介した先輩リーダーでした。
その人は、どんなに忙しくても常に落ち着いていて、判断や行動に一切のブレがありませんでした。
なぜか?──その人には、明確な チーム理念(ビジョン) があったからです。
私はその姿を見て、強く憧れると同時に気づきました。
「自分には、ビジョンがない。だから部下も迷うし、チームもまとまらないのだ」と。
✅ 小まとめ
この失敗経験から学んだのは、リーダーにとって「ビジョン」は単なるお飾りではなく、日々の判断を支える“軸”であるということです。
そしてその軸があるかどうかで、チームの雰囲気も、成果の持続力も、大きく変わっていくのです。
あなたもできる!ビジョンを描くためのステップ
「ビジョンを持つことが大事なのは分かった。でも、どうやって描けばいいの?」
そんな疑問に応えるために、シンプルな3ステップをご紹介します。
ステップ1:自分の大切にしたい価値観を言語化する
まずは「自分はどんな価値観を大事にしたいか」を書き出してみましょう。
・誠実さ
・挑戦する姿勢
・チームワーク
・成果よりも学び など
何を大事にするかはリーダーによって違って構いません。
あなたが心から大切だと思える価値観こそが、ビジョンの出発点になります。
ステップ2:チームにとっての理想像を描く
次に考えるのは「自分のチームをどうしたいか」です。
「ただ売上を出す集団」なのか、「互いに学び合う集団」なのか。
理想の姿を描くことで、部下にとっての“旗印”が見えてきます。
👉 たとえば、私のチーム理念は
- 常に誠実であれ
- 自分に嘘をつくな
- 時間を無駄にしない
- 幸せを追求しろ
というもの。
これを旗として掲げることで、日々の判断に迷わなくなり、部下も安心してついてきてくれるようになりました。
ステップ3:日常の判断や行動に落とし込む
ビジョンは、掲げただけでは意味がありません。
大事なのは「日常の判断基準として使うこと」です。
例えば、
- 部下への指示を出すときに「このやり方は誠実か?」と問い直す
- プロジェクトの方針転換を迫られたときに「理念に沿っているか?」と確認する
このように繰り返すことで、ビジョンはチーム全体に浸透していきます。
✅ 小まとめ
ビジョンは、特別なリーダーだけが描けるものではありません。
「価値観を明確にする → 理想像を描く → 日常に落とし込む」
この3ステップを実践すれば、誰でも自分のチームに“旗”を立てられるのです。
まとめと書籍紹介
リーダーとして成果を出すために大事なのは、ただがむしゃらに働くことではありません。
「どこに向かうのか」という ビジョン(軸)を持つこと。
それがあれば、部下も安心してついてきてくれるし、チーム全体が力を合わせられるようになります。
私自身も、先輩リーダーの姿に憧れてチーム理念をつくり、それを判断基準にしてから、迷いが少なくなり、メンバーの主体性も高まっていきました。
ビジョンは難しい言葉である必要はなく、シンプルで構いません。
まずは「自分が大切にしたい価値観」を言葉にしてみることから始めてみてください。
📖 補足でおすすめの書籍
ビジョンを考える上で特に参考になるのが、グレッグ・マキューン著 『エッセンシャル思考』 です。
この本のメッセージは「より少なく、しかしより良く」。
つまり、あれもこれも手を出すのではなく、本当に大事なことに集中することで成果を最大化するという考え方です。
リーダーにとっても同じで、「自分のチームは何を大事にするのか」という本質的な問いを立てられるかどうかが、チームの方向性を左右します。
「エッセンシャル思考」の実践は、そのまま「自分のリーダー像を明確にする第一歩」につながるはずです。
✅ まとめの締め
ビジョンは特別な人だけが掲げるものではなく、誰でも今日から描けるものです。
まずは一行でも、自分の理念を書き出してみましょう。
それが、あなたがリーダーとしてチームを導く“旗”になるのです。
リーダーにとってビジョンは不可欠です。
ただし、ビジョンがあっても「時間がなくて実行できない」では意味がありません。
👉 次は、時間管理に悩むプレイングマネジャーの課題についてまとめた記事を読んでみてください。
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